へんろ道に咲く花1輪・・・そんな花になりたい・・・
Category :
学校
大乗仏教の諸思想と密教的展開について
―大乗仏教から密教へと連なる菩提心 『大日経』を中心にして―
1.はじめに
弘法大師空海は、数々の思想を展開したが、その中でも思想的仕上げと言っても過言ではないものが、『秘密曼荼羅十住心論』で説かれた十住心の思想である。この十住心の主たる典拠となったのが、『大日経』における「住心品」であり、不空著作の可能性が高い『菩提心論』であった。そこで、本レポートではこれらの典拠に共通する思想である菩提心をキーワードにして、以下設題に答えたい。
2.大乗仏教と密教の関係
先ずは大乗仏教と密教の各々の起こりから考察したい。大乗仏教は、第二回目の結集の結果、保守派から分かれた大衆部の流れから生まれたものである。この原因は、部派仏教が、あまりに戒律や教法にこだわった結果、1.仏になれるのは、釈尊という1人の特別な人物に限られる、と考えたこと、2.自利自覚、すなわち自分だけが救われ悟ることに重点を置き、他を救い悟らせるという大衆の救済を疎かにしたこと、3.出家主義、すなわち悟りを開く為には僧侶にならなければならないとし、大衆の信仰活動に重きを置かなかったこと、4.議論を重んじ実践活動を疎かにしたこと、等が挙げられよう。これに対して大乗仏教運動を起こした勢力は、ブッダ釈尊の知恵と慈悲を信じ、菩薩道に精進すれば、本来衆生は仏性を有するが為に誰でも成仏できると、釈尊精神復古を訴え、まさに部派仏教の欠点を裏返した特徴をもつ大乗仏教を成立させた。密教はこの大乗仏教の特徴を基盤に、土着の神々や、呪文や祈祷といった現世利益を願う民間信仰の要素も取り入れて成立することとなる。
3.『大日経』の「住心品」にみる菩提心
密教の歴史を振り返ると、その流れの中心となるものの一つに菩提心がある。また密教の歴史においてそれの考察や成就に至る実習、その体系付けは大きな位置を占める。それらの端緒となったのが『大日経』において説かれる菩提心思想であった。特に「住心品」においては、それまでの大乗仏教の特徴的な思想をも著述しているので、ここでは「住心品」が菩提心をどのように著述しているのか見てみたい。
それより以前大乗仏教においては、「上求菩提、下化衆生」すなわち、上を向いては悟りを求める姿勢を失わず、同時に下に向っては苦しむ衆生の救済に全力投球を行う[i]、という意味の言葉が存在した。更に後期の大乗仏教において菩薩は、1.空、すなわち菩提心、悟りを求めようとする心と、2.悲、すなわち衆生の苦しみを見るに忍びず、その救済に向うことの両方を持ちつづけなければならないという、空と悲の双修がその教学において主張された[ii]。
これらの言葉や主張は大乗仏教の特徴的な思想であるが、それを密教的に展開させたのが、『大日経』であった。この経典は、真理そのもののあらわれである法身すなわち大日如来が、弟子の質問に答えて真理を説く、という形をとっており、そのやりとりの中心となるのが、一切智、すなわちありとあらゆる知恵を体得する絶対的な知恵を獲得する方法やその根拠、にある。全三十一品(章)あるうち、第一章にあたるのが「住心品」である。なかでも「住心品」中に説かれた、「三句の法門」と言われる三句説は『大日経』の思想を代表しており、執金剛秘密主が如来に対して、仏の知恵とは何か、と尋ね、それに如来が次の三句を答える形で叙述している。
菩提心を因となし、
悲を根本となし、
方便を究竟とす。
これの解釈は密教の教義の成立にあたり大きな役割を果したといえるが、それは、因を種子に、根本を樹根に、究竟を果実に例えて、「菩提心という種子が芽を出し、その根である大悲の心によって育まれ、果実たる方便が多くの衆生を救済することが究竟の目的となる。」とする[iii]。そして、この全てのはたらきをもつものを一切智とした。すなわち、菩提心を行動の原因とし、大悲を動機とし、実践活動を通してこそ結実するというのである。そして「三句の法門」を実践して初めて一切智を獲得し、悟りが開けると説くのである。この、実践活動に重きをおいたところが、大乗仏教と異なる、密教的展開を示した大きな特徴であった。なぜなら、菩提心、大悲は先述したとおり大乗仏教中にも見られたが、実践活動があって初めて結実するという思想は、ここで展開された初めての思想であったからである。菩提心があっても実践活動なくしては、その価値を失うという考は、今までの大乗仏教が、密教へと展開する上で重要なポイントであった。
4.まとめ
以上菩提心をキーワードに大乗仏教の思想が密教へ変化を遂げたところを考察した。冒頭で述べた弘法大師空海もやはり実践活動というところに重きをおかれ、『秘蔵宝鑰』において、第十住心に至るには、仏の教えを議論し、経典を読むだけではなく、自ら行動することが大切、と説かれている。
PR
この記事にコメントする